「涙の箱」 ハン?ガン / きむ ふな ノーベル文學賞作家ハン?ガンがえがく、大人のための童話 この世で最も美しく、すべての人のこころを濡らすという「純粋な涙」を探して 昔、それほど昔ではない昔、ある村にひとりの子どもが住んでいた。その子には、ほかの子どもとは違う、特別なところがあった。みんながまるで予測も理解もできないところで、子どもは涙を流すのだ。子どもの瞳は吸い込まれるように真っ黒で、いつも水に濡れた丸い石のようにしっとりと濡れていた。雨が降りだす前、やわらかい水気を含んだ風がおでこをなでたり、近所のおばあさんがしわくちゃの手で頬をなでるだけでも、ぽろぽろと澄んだ涙がこぼれ落ちた。 ある日、真っ黒い服を著た男が子 著者について ハン?ガン (ハンガン) 1970年、韓國?光州生まれ。延世大學國文學科を卒業(yè)。1994年、ソウル新聞新春文蕓に短編「赤い碇」が當選し、作家デビュー。2005年、『菜食主義者』(クオン)で李箱文學賞を、また同作で2016年にアジア人初の國際ブッカー賞を受賞。2017年、『少年が來る』(クオン)でイタリアのマラパルテ賞、2023年、『別れを告げない』(白水社)でフランスのメディシス賞(外國小説部門)、また同作で2024年、フランスのエミール?ギメ アジア文學賞を受賞。2024年、「過去のトラウマに向き合い、人間の命のもろさを浮き彫りにする強烈な詩的散文」が評価され、ノーベル文學賞を受賞。他に『引き出しに夕方をしまっておいた』『そっと 靜かに』(以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(晶文社)、『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)、『回復する人間』(白水社)などが邦訳されている。 きむ ふな (キムフナ) 韓國生まれ。韓國の誠信女子大學、同大學院を卒業(yè)し、専修大學大學院日本文學科で博士號を取得。日韓の文學作品の紹介と翻訳に攜わる。訳書にハン?ガン『菜食主義者』、キム?エラン『どきどき僕の人生』、キム?ヨンス『ワンダーボーイ』、ピョン?ヘヨン『アオイガーデン』、シン?ギョンスク『オルガンのあった場所』(以上クオン)、孔枝泳『愛のあとにくるもの』(幻冬舎)など。共訳書にハン?ガン『引き出しに夕方をしまっておいた』(クオン)など。著書に『在日朝鮮人女性文學論』(作品社)がある。韓國語訳書の津島佑子『笑いオオカミ』にて板雨翻訳賞を受賞。