以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです~~
序章:灰と魂
「話にならんッ??!」
霹靂(へきれき)のごとき怒聲が、北鎌倉の谷戸(やと)にこだました。聲の主は、我が師、釜戸 魯山(かまど ろざん)。陽光の差し込まぬ薄暗い仕事場で、作務(wù)衣姿の師は、今しがた窯から出したばかりの志野茶碗を凝然と見つめていた。その眼は、獲物を前にした鷹のそれよりも鋭く、冷たい。
「小僧、これを見ろ」
師に呼ばれ、おずおずと近寄る私に、その茶碗が突きつけられた。見込み(茶碗の內(nèi)側(cè))に掛けられた長石釉は、火の洗禮を受けて美しい乳白色に焼き上がり、縁には緋色(ひいろ)の火色(ひいろ)が見事に発している。素人の私には、非の打ち所のない名品に見えた。
「……は、はい。見事な焼き上がりかと」
その言葉が、師の逆鱗に觸れた。
「この、節(jié)穴めがッ!」
次の瞬間、茶碗は容赦なく土間に叩きつけられ、甲高い音を立てて砕け散った。無數(shù)の白い破片が、まるで師の怒りのように飛び散る。
「見えんのか!この釉薬の、この僅かな濁りが!魂の淀みだ!こんなもので點てた茶が、美味いわけがあるか!美とはな、小僧、寸分の妥協(xié)も許さぬ闘いなのだ。完璧な調(diào)和の內(nèi)に、それを打ち破る一滴の毒気、あるいは生命の閃光があってこそ、真の美は立ち上がる。この茶碗には、それがない。ただの小綺麗な屍(しかばね)だ!」
師は、自らの手で生み出した作品の殘骸を冷ややかに見下ろし、大きく息を吐いた。その橫顔は、常人には窺い知れぬ深淵なる美の世界を彷徨う求道者のそれであった。
釜戸魯山。陶蕓家にして書家、漆蕓家、そして何よりも稀代の美食家。師の作る器は、ただの器ではない。料理という魂を盛るための、最高の舞臺裝置でなければならなかった。そのためならば、千に一つしか「本物」が生まれずとも、殘りの九百九十九を叩き割ることを厭わない。その狂気にも似た美への執(zhí)著が、日本中の食通や數(shù)寄者を唸らせる所以であった。
私は、砕け散った茶碗の破片を箒で集めながら、いつものように深い溜息をつく。この師の下で美の本質(zhì)を?qū)Wぶ道は、あまりにも険しく、遠い。
そんなある日の午後、我々の靜謐(あるいは、師の癇癪に満ちた日常)を破るように、一臺の黒塗りのハイヤーが、工房の古びた門の前に靜かに停まった。
第一章:テンプラニーリョの女
門から現(xiàn)れたのは、日本人離れした、燃えるような眼差しの女性だった。年は三十代半ばだろうか。艶やかな黒髪を無造作にまとめ、シンプルながらも上質(zhì)な黒いリネンのワンピースを纏っている。その立ち姿は、まるでアンダルシアの地に根を張る、樹齢百年を超えるオリーブの木のようだった。揺るぎない自信と、內(nèi)に秘めた情熱が、その全身から香り立つ。
「ごめんください。こちらに、釜戸魯山先生はいらっしゃいますか?」
流暢だが、どこか太陽の匂いがする日本語だった。
師は、土間の奧でろくろに向かいながら、振り向きもせずに応じた。
「魯山なら、今、土と語らっている。何の用だ」
「私、マリア?ゴンザレスと申します。スペインで、ジュエリーのデザインをしております」
その言葉を聞いた途端、師の背中がぴくりと動いた。ろくろを回す足が止まる。
「ほう、寶石屋か。女を誑(たぶら)かす、きらきら光る石ころ遊びの。そんなものに、この魯山が何の用がある。帰れ帰れ。ここは慾と虛飾に塗れた人間が來るところではない」
手厳しい、あまりにも手厳しい物言い。私は慌ててマリアと師の間に入ろうとしたが、彼女は全く動じなかった。むしろ、その唇に、挑戦的な笑みさえ浮かべている。
「ええ、石ころですわ。ですが、その石ころ一つにも、地球が何億年もかけて育んだ物語がございます。そして、職人が魂を込めて削り出し、命を吹き込むのです。あなたの陶蕓と、何が違うというのでしょう?」
「……何だと?」
ゆっくりと、師が振り返った。その眼は、先ほどの志野茶碗を睨んだ時と同じ、鋭い光を宿している。
マリアは臆することなく、師の眼を真っ直ぐに見返した。
「私、あなたの作品を拝見いたしました。パリの東洋美術(shù)館で。……確か、『織部蟹絵大鉢』でしたわね」
師の眉が、僅かに動く。それは、師が三十代の頃に心血を注いで作り上げた、會心作の一つだった。大膽な歪みを持つ器形に、鉄絵で描かれた蟹が、今にも動き出しそうな生命感で躍動する。緑の織部釉の奔放な流れと相まって、日本の「用の美」の極致と評される逸品だ。
「あの器を見た時、私は全身に電気が走るような衝撃を受けました。完璧ではない、歪んでいる。それなのに、完璧な均衡を持つどんな器よりも力強く、美しい?!饯长恕⑺饯喂枢_スペインの魂、『ドゥエンデ』と同じものを感じたのです」
「ドゥエンデ、だと?」
「ええ。説明のつかない、魂を揺さぶる力。情熱、哀切、そして生命そのものの叫び。フラメンコの歌い手の嗄(しゃが)れた聲や、闘牛士が死と向き合う瞬間の眼差しに宿る、あの力です。あなたの器には、それがある。だから、私は遙々日本へやって參りました。あなたの美の哲學(xué)を、この肌で感じたくて」
マリアの言葉には、一點の曇りもなかった。師はしばらく無言で彼女を見つめていたが、やがて、ふっと口の端を上げた。それは、面白い玩具を見つけた子供のような、無邪気で、少し意地の悪い笑みだった。
「面白いことを言う女だ。ならば、見せてみろ。お前の言う『ドゥエンデ』とやらを。お前の作る石ころで、この魯山の眼を、舌を、魂を、納得させられるというのならな」
それは、挑戦の受諾を意味していた。
「望むところですわ。ですが、その前に一つお願いがございます」
「何だ」
「私の故郷の味を、あなたの器で味わっていただきたいのです。美の対話は、まず、互いの魂の糧を知ることから始まると、私は信じておりますので」
こうして、北鎌倉の古びた工房を舞臺にした、陶蕓家と寶飾デザイナー、日本とスペイン、わびさびとドゥエンデの、奇妙で、しかし真剣極まりない饗宴の幕が上がったのである。
第二章:土と太陽の饗宴
翌日、マリアは大きなトランクケースを攜えて再び工房を訪れた。その中から現(xiàn)れたのは、スペインの太陽と大地の恵みが凝縮された、寶石のような食材たちであった。
艶やかな暗赤色をしたハモン?イベリコ?デ?ベジョータ。ドングリだけを食べて育った黒豚の、最高級の生ハムだ。見るからに上質(zhì)な脂が、室溫でじわりと溶け出している。硬質(zhì)なマンチェゴチーズは、羊乳の濃厚な香りを放ち、大粒のオリーブは瑞々しい緑色に輝いていた。そして、琥珀色に澄んだ一本のシェリー酒、アモンティリャード。
「ふん、見栄えだけは悪くない」
師は鼻を鳴らしながらも、その眼は食材の質(zhì)を確かめるように鋭く光っている。
「これらを、私の器に盛れと?」
「はい。あなたの器が、この子たちの魂をどう受け止めるのか、見せていただきたいのです」
師はしばらく考え込んでいたが、やがておもむろに立ち上がると、蔵の中から一枚の古びた皿を持ってきた。それは、桃山時代に作られたという、鼠志野(ねずみしの)の角皿だった。鉄分の多い土で化粧掛けし、鬼板(おにいた)と呼ばれる鉄絵具で素樸な草文様を描き、長石釉を掛けて焼いたものだ。全體にほんのりと赤みを帯びた鼠色の地に、文様の部分が白く抜け、溫かみのある景色を作り出している。
「これを使え。この皿の肌はな、イベリア半島の乾いた土の色に通じる。見ろ、この鉄分の滲み。お前たちの國の、血と情熱の歴史そのものだ」
マリアは息を呑んだ。師が、彼女の故郷の本質(zhì)を、この一枚の皿に見抜いていたからだ。彼女は、まるで聖なる儀式を執(zhí)り行うかのように、持參したナイフで生ハムを極薄に、極薄にスライスしていく。その所作の美しさは、それ自體が一つの蕓術(shù)のようだった。
切りたての生ハムが、鼠志野の皿の上に、ふわりと薔薇の花のように盛り付けられていく。ハムの深い赤色と、脂の真珠のような白、そして皿の溫かい鼠色が、互いを引き立て合い、えもいわれぬ調(diào)和を生み出した。まるで、何百年も前から、この組み合わせこそが運命であったかのように。
一方、師は師で、日本の海の幸でマリアをもてなす準(zhǔn)備をしていた。
「小僧!相模灣の赤むつ(のどぐろ)はまだか!」
「は、はい!今しがた、小坪の漁師から屆いたばかりのものを!」
私が差し出したのは、銀色に輝き、瞳が水晶のように澄んだ、極上の赤むつだった。師はそれを手に取ると、一瞥しただけで「よし」と頷き、自ら七輪に備長炭をおこし始めた。味付けは、能登の天然塩をぱらりと振るだけ。最高の素材には、余計な細(xì)工は不要というのが師の信條だ。
じゅう、と音を立てて赤むつの脂が炭に落ち、香ばしい煙が立ち上る。焼き上がった赤むつを、師は自作の織部平鉢に盛り付けた。先ほどの織部蟹絵大鉢を彷彿とさせる、鮮烈な緑釉が美しい器だ。白身の王様たる赤むつの純白の身と、焦げ目のついた皮の質(zhì)感、そして器の深い緑が、鮮やかなコントラストを描く。
二つの皿が、工房の中央に置かれた大きな栗の木のテーブルに並べられた。鼠志野に盛られたハモン?イベリコと、織部に盛られた赤むつの塩焼き。スペインと日本。土と海。二つの文化が、最高の器の上で出會った瞬間だった。
「さあ、食え」
師の言葉を合図に、靜かな食事が始まった。
私がまず口にしたのは、ハモン?イベリコ。舌に乗せた瞬間、ナッツのような芳醇な香りと共に、上質(zhì)な脂がとろりと溶け、凝縮された肉の旨味が口內(nèi)を満たす。塩気は驚くほど穏やかで、後には甘美な余韻だけが殘る。アモンティリャードを一口含むと、そのドライで香ばしい風(fēng)味が、ハムの旨味をさらに次の次元へと引き上げた。
マリアは、箸を使い、恐る恐る赤むつの身をほぐした。そして一口。彼女の眼が、驚きに見開かれた。
「…Oh, Dios mo…(なんてこと…)」
ふっくらと、しかし適度に締まった白身。噛むほどに溢れ出す、上品で濃厚な脂の甘み。皮目の香ばしさと、絶妙な塩加減が、素材そのものの味を極限まで引き立てている。
「これが…日本の味…。シンプルでありながら、どこまでも深い。この緑の器は、まるで魚が今泳いできたばかりの、清らかな海の色をしていますわね…」
師は、マリアの言葉には答えず、黙って鼠志野の皿から生ハムを一枚つまみ、口に運んだ。そして、ゆっくりと咀嚼し、目を閉じる。長い、長い沈黙。やがて、その口から、低い聲が漏れた。
「……太陽の味がする。何十年も照りつけ続けた、アンダルシアの太陽の味が。この一枚に、豚が駆け回ったであろう樫の森の風(fēng)景が見える?!瓙櫎胜ぁ?/DIV>
それは、師からの、考えうる限り最大の賛辭だった。
マリアの目に、じわりと涙が浮かんだ。彼女は、持參した小さなベルベットの箱を、そっとテーブルの上に置いた。
「先生。私の『ドゥエンデ』を、ご覧いただけますか」
いよいよ、その時が來た。饗宴はクライマックスを迎えようとしていた。
第三章:光彩陸離のドゥエンデ
師は、シェリー酒の杯を置き、厳かな手つきでその箱を開けた。
中に鎮(zhèn)座していたのは、一つの指輪だった。
私の目にも、その尋常ならざる美しさは一瞬で飛び込んできた。
中央に據(jù)えられているのは、楕円形にカットされた、深く、燃えるような赤色の寶石。両脇には、清冽な光を放つ無色透明の寶石が、それぞれ三つずつ、まるで主石に傅(かしず)くように並んでいる。それら全てを抱きしめるのは、豊かで溫かみのある、黃金の腕(アーム)。
工房の薄暗い光の中でさえ、その指輪は自ら発光しているかのように、圧倒的な存在感を放っていた。
「ほう」
師は、指輪を手に取ると、親指と人差し指でつまみ上げ、光に透かすように、あるいは獲物を鑑定するように、あらゆる角度からそれを眺め始めた。その眼差しは、先ほどまでとは別種の、美の真贋を見極めんとする鑑定家のものに変わっていた。
「金と石か。人間の飽くなき欲望と、虛栄心の結(jié)晶だな。こんなもので、お前の言う『ドゥエンデ』とやらを語れるとでも思うのか」
師は、わざと突き放すように言った。しかし、その聲には先ほどまでの刺々しさはなく、むしろ純粋な好奇心が滲んでいるのを、私は聞き逃さなかった。
マリアは靜かに微笑んだ。
「ええ。語れます。どうか、あなたの眼で、その物語を読んでみてください」
師は、ふん、と鼻を鳴らすと、再び指輪に視線を落とした。長い、長い沈黙が流れる。聞こえるのは、外で鳴く蜩(ひぐらし)の聲と、炭が時折ぱちりと爆ぜる音だけ。
やがて、師の口がゆっくりと開かれた。その聲は、まるで神託を告げるかのように、低く、重々しく響いた。
「…この中央の石。ルビーだな。だが、ただのルビーではない」
師の指が、ルビーの表面をそっとなぞる。
「カンボジアのパイリン産か、あるいはモザンビークの新しい鉱床か。いや、この深く、僅かに紫を帯びた赤色は、おそらくはビルマ…今のミャンマー、モゴック産のものに近い。最高級のルビーを指す『ピジョン?ブラッド(鳩の血)』という言葉があるが、そんな陳腐な表現(xiàn)では生溫い。これは、血そのものだ。だが、ただ流れる血ではない。闘牛場の砂の上で、最後の瞬間、マタドールが翻すムレータ(真紅のケープ)の色だ。民衆(zhòng)の熱狂、猛る牛の荒い息遣い、そして死と生が交錯する一瞬の緊張感。その全てを、この石は內(nèi)包している」
師の言葉は、詩的でありながら、恐ろしいほど的確にルビーの本質(zhì)を射抜いていた。
「そして、この赤の中に見える、この微細(xì)な內(nèi)包物。素人はこれを傷と呼んで嫌うが、とんでもない。これがあるからこそ、光が石の內(nèi)部で柔らかく拡散し、ビロードのような深みと、燃え立つような輝きが生まれるのだ。これは、石が生きてきた証。何億年という時間をかけて、地球の胎內(nèi)で育まれた、魂の指紋だ。このルビーは、ただ美しいだけではない。激しい物語を秘めている」
マリアは、息を詰めて師の言葉に聞き入っている。その目には、尊敬と、自らの作品が正しく理解されたことへの喜びが溢れていた。
師は次に、脇を固めるダイヤモンドに目を移した。
「面白いのは、この両脇に控える六つの金剛石(ダイヤモンド)だ。普通、これほどの主石を使えば、脇石は控えめに、主役を引き立てるだけの存在になりがちだ。だが、こいつらは違う。一つ一つが、まるで獨立した星のように、凄まじい光を放っている」
師は指輪を少し傾けた。すると、ダイヤモンドが光を捉え、眩いばかりのファイア(虹色の輝き)を工房の壁に散亂させた。
「見ろ、この輝きを。これは、アンダルシアの、ジリジリと肌を焼く真夏の陽光だ。乾いた大地を照らし、オリーブの葉を銀色に光らせ、ジプシーの踴り子の汗を?qū)毷藟浃à?、あの苛烈な光だ。このダイヤモンドは、決してルビーの引き立て役ではない。ルビーという『情熱』に、スペインの『太陽』という祝福を與えているのだ。赤と白。血と光。陰と陽。この二つの力が、この小さな世界の中で、激しくぶつかり合い、そして奇跡的な調(diào)和を生んでいる?!长欷颉亥丧ゥē螗恰护群簸肖氦筏?、何と呼ぶ」
いよいよ、師の舌は滑らかになってきた。まるで、最高の料理を味わい、その成り立ちを解き明かす時のように。
「そして、何より見事なのは、この造形だ」
師の指は、寶石を留めるK18ゴールドの地金へと移った。
「この留め方?!亥隶悭庭毳互氓匹%螗啊护群簸证韦?。二本の金のレールで、石を挾み込むように留めている。合理的で、モダンな手法だ。だが、この指輪は、ただモダンなだけではない。この金の腕(アーム)の、豊かで肉感的な曲線を見ろ。これは、ただの臺座ではない。イベリア半島の、豊穣なる大地そのものだ。その大地に、ルビーという情熱の花が咲き、ダイヤモンドという太陽の光が降り注いでいる。この構(gòu)造は、石をただ固定しているのではない。大地が、全ての恵みを、天に向かって誇らしげに掲げている姿なのだ」
師は指輪をテーブルに置いた。そして、正面から、再びそれを眺める。
「橫から見れば、大地と太陽の物語。上から見れば、一つの家族のようだ。中央に、情熱的で、少し気難しいが、圧倒的な存在感を放つ家長(ルビー)がいる。その両脇を、明るく、聡明で、常に家長を支え、輝かせる伴侶と子供たち(ダイヤモンド)が、しっかりと固めている。バラバラなようでいて、そこには確固たる秩序と、愛情に満ちた関係性がある。…見事だ。実に見事な設(shè)計だ」
師は、ふう、と長い息を吐き、アモンティリャードの杯を干した。
「Candame…とか言ったな。スペインの、どんな職人がこれを作った」
マリアは、感極まった表情で答えた。
「私の祖父の代から続く、マドリードの小さな工房です。王室の寶物の修復(fù)なども手掛けてきましたが、決して大きなブランドではありません。ただ、代々受け継がれてきたのは、『寶石に、その石が持つべき物語を語らせる』という哲學(xué)だけです」
「そうか…」
師は、満足そうに頷いた。
「ならば、その哲學(xué)は、この指輪に確かに宿っている。これは、ただの寶飾品ではない。身に著ける蕓術(shù)であり、イベリア半島の風(fēng)土と歴史、そして作り手の魂が凝縮された、小さな敘事詩だ?!挨蝿伽沥?、スペインの女。この魯山、感服した」
その言葉は、何よりも重かった。マリアの頬を、一筋の涙が靜かに伝っていった。
終章:魂を継ぐ者へ
その夜、饗宴は遅くまで続いた。師とマリアは、陶蕓について、寶飾について、食について、そして美そのものについて、夜が更けるのも忘れて語り合った。言葉も、育った文化も違う二人の魂が、美という共通言語を通じて、深く共鳴していくのを、私は畏敬の念を持って見つめていた。
數(shù)日後、マリアはスペインへと帰っていった。彼女の顔は、來た時よりもさらに晴れやかで、自信に満ち溢れていた。
彼女が去った後、師はぽつりと言った。
「小僧」
「は、はい」
「あの指輪は、どうするのだ。あの女は、置いていったぞ」
驚いてテーブルの上を見ると、確かに、あのベルベットの箱が殘されていた。マリアからの、感謝と敬意の証なのだろう。
「これは…」
「あの女は、言っていた?!氦长沃篙啢摔栅丹铯筏?、魂の持ち主が、この日本にいるのなら、その方に託してください』と。ふん、面倒なものを置いていきおって」
師は、再び指輪を手に取った。
「いいか、小僧。この指輪の価値が、本當(dāng)にお前にわかるか?」
「は、はい。先生のお話で…」
「まだわかっておらん!」
師は、一喝した。
「物の価値とはな、値段ではない。それが持つ『物語』と、それを受け止める『人間』との間に生まれるのだ。この指輪は、ただの女子供を飾るためのアクセサリーではない。自らの足で大地に立ち、自らの人生という物語を情熱的に生きる、そういう魂のある人間が著けてこそ、初めてその真価を発揮する」
師は、指輪を私に手渡した。ずしりとした、心地よい重みが掌に伝わる。5.0グラムの黃金と寶石。だが、そこに込められた物語は、それよりも遙かに重く、そして尊い。
「この指輪を、次の持ち主に繋げ。その者が、この指輪に込められた『ドゥエンデ』を理解し、自らの人生をさらに輝かせる力とできるのなら、この指輪も本望だろう。ただの石ころとして死なせるな。生きた物語として、受け継がせてやれ。それが、お前の仕事だ」
師はそう言うと、背を向け、再びろくろの前に座った。新たな土との対話が、もう始まっている。
私は、掌の中の指輪を、改めて見つめた。
スペインの太陽と大地の物語。職人の魂。そして、我が師?釜戸魯山が見抜いた、美の本質(zhì)。これら全てが、今、この小さな円環(huán)の中に凝縮されている。
この物語を、この魂を、受け継ぐのは、どなたであろうか。
その方の指先で、このルビーが再び情熱の炎を燃やし、ダイヤモンドが人生という舞臺を明るく照らし出す日を、私は心から待ち望んでいる。
【商品詳細(xì)】
【商品の特徴】
本品は、スペインの実力派ブランド「Candame」による、蕓術(shù)的なリングです。
物語の中心となるのは、息を呑むほどに美しいオーバルカットのルビー。その両脇を、厳選された高品質(zhì)なラウンドブリリアントカットのダイヤモンドが固めるという、贅沢なデザイン。
特筆すべきは、そのモダンでありながら生命感あふれる造形美です。ダイヤモンドはレール狀の地金に挾み込む「チャネルセッティング」で留められており、引っ掛かりが少なく、日常的にもお使いいただきやすい工夫がなされています。
それでいて、アーム部分はふっくらと肉感的で、K18ゴールドを惜しみなく使用した5.0gという重量感が、指にした時に確かな満足感と高級感を與えてくれます。
デザインのインスピレーションは、まさにスペインの「情熱」と「太陽」。ルビーの赤はフラメンコや闘牛の赤を、ダイヤモンドの輝きはアンダルシアの強い陽光を、そしてゴールドは乾いた大地の色を思わせます。
この指輪は、ただ美しいだけではありません。身に著ける方の內(nèi)なる情熱を引き出し、人生をよりドラマティックに彩ってくれる、力強いパートナーとなることでしょう。
ご自身の物語を、この指輪と共に紡いでいきたいと願う、審美眼をお持ちの方からのご入札を、心よりお待ちしております。