秋聲の全集は、昭和十一年頃、『仮裝人物』連載中にそれが完成するだろうという見込みのもと、非凡閣から刊行された全十四巻別巻一のものがあります。當(dāng)時秋聲の周辺にいた菊池寛、久米正雄、里見弴、島崎藤村、中村武羅夫、広津和郎、室生犀星といった錚々たる作家たちが編集委員を務(wù)めました。けれども『仮裝人物』が秋聲の病気により(この時點(diǎn)で)完成に到らず収録できなかったこととともに、刊行後に発表された『光を追うて』『縮図』といった名作が當(dāng)然この全集には入っていません。生前に出たものなので〝全集?としては不完全ということになる訳です。やがて秋聲が亡くなり、戦後になって、小説家の和田芳恵と武田麟太郎が角川書店を引き込んで、全集の計畫をたてます。武田は秋聲を尊敬し、直接の弟子ではないけれど、秋聲文學(xué)の後継者は自分であると公言するほど秋聲に心酔していた作家です。秋聲長男の一穂さんと相談しながら熱心に取り組んでいたのですが、肝硬変で急死し、結(jié)局実現(xiàn)できませんでした。
昭和二十二年、大地書房から菊池や川端らを編者に、全二十六巻本の制作が発表されましたがこれも実現(xiàn)できず、『仮裝人物』一冊を出しただけで終わります。そのあと文蕓春秋新社から「全集」はやはり難しいということで『秋聲選集』が企畫されます。全何巻の予定であったか、また編者も不明ですが、五冊で中絶。次に乾元社から広津、川端、宇野浩二の編集で、全十巻予定の選集が企畫されますが、結(jié)果三冊で潰れます。昭和三十六年、雪華社が今度は「全集」という名で刊行を開始。室生、広津、川端らが攜わり、良い全集だったのですが全十五巻予定のうち六冊で中絶します。一穂さんの細(xì)やかな校訂が施されていただけに、本當(dāng)に殘念なことでした。
その後、臨川書店が最も巻數(shù)の多い生前の非凡閣版を復(fù)刻のうえ、雪華社版に収録された『仮裝人物』『光を追うて』『縮図』などを加えて『秋聲全集』全十八巻を刊行します。これがそれまでで最も完備した全集となり、研究者にも利用されました。と